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『萬葉集釋注6 巻第十一・巻第十二』伊藤博(集英社文庫)

『萬葉集釋注六 巻第十一・巻第十二』伊藤博(いとう・はく)(集英社文庫ヘリテージシリーズ)全10巻

2005年9月21日初版発行
798頁(本文746頁・注・解説・エッセイ)




収録作品(目次)

万葉集 巻第十一(2351~2840)
万葉集 巻第十二(2841~3220)

解説 万葉集解説六(三田誠司)
古代史を彩る人間の声―私の愛する万葉集(馬場あき子)


万葉集のすべての歌を訳し、それぞれの歌について解説をした本。
筆者の知る限り本書のような書籍はこれのみである。
全訳されたものは、ほかに『新版 万葉集 現代語訳付き』伊藤博(全4巻)と『万葉集 全訳注原文付』中西進(全4巻+別巻1)とがあるがそれらには、解説・評釈はない。

「これまでの万葉集の注釈書は、一首ごとに注解を加えることが一般的であった。だが、万葉歌には、前後の歌とともに歌群として味わうことによって、はじめて真価を表わす場合が少なくない」(本書p.3)との考えから注釈されている。

端正で達意の文章が心地よい。

注釈書は見開きページの上や下の何分の一を区切って、そこに小さい文字がびっしりと並んでいるものも珍しくないが、本書は注はうしろにまとめて、本文の文字は大きく行間は広く、読みやすい素晴らしい構成である。ページの下部隅に歌番号が付されているので番号が分かれば、目当ての歌を楽に探し出せるのも便利。

それから、第1巻から順に読まなくとも各巻単体でも分かるように配慮されているのもよい。

大部の本で読み通すのに時間がかかるが、万葉集のすべての歌を知りたい人には本書が最良である。
当然、研究する人は必読必携。

本書は評釈なので著者自身のエピソードや体験の記述は稀である。その数少ない著者の体験と絡めた解説がとても印象深い。

p.135

打つ田に 稗はしあまた ありといへど 選らえし我れぞ 夜をひとり寝る(2476)

田んぼに、稗(ひえ)はまだたくさん残っているというのに、よりによって抜き捨てられた私は、夜な夜なをただ独り寝ている。

あぶれ者が、稗にも劣るとひがんでいる。……農民が稲のあいだに交じって繁殖する稗を嫌う心情はきわめて強い。もみに稗の実が混入すると、米の味は極度に落ちてしまうからである。幼童時代、子どもの仕事として、青田の中にいち早く芽を吹くその稗を除去する作業に従事した経験は筆者[引用者注:伊藤]にもある。正確に除去しないで、父親に叱責された記憶はまだ新しい。


[関連]
『萬葉集釋注六 巻第十一・巻第十二』伊藤博(1997・集英社)単行本

[参考]
『新版 万葉集 現代語訳付き』伊藤博(全4巻)

『万葉集 全訳注原文付』中西進(全4巻+別巻1)

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